本研究は、F-アクチン(FA)の上を『滑り』つつあるミオシン頭部の構造を急速凍結電子顕微鏡法により観察しその『滑り』運動のメカニズムを追及するための手掛かりをつかもうとするものである。本年度購入した超高感度テレビカメラ及びその関連システムを用いることにより、ミオシン頭部で覆われたカバーグラス上を『滑る』蛍光標識単一アクチオンフィラメントの運動を種々のイオン環境で観察した。これまでの報告にもある通り、運動にはMg^<2+>-ATPのみでなくMg^<2+>も必要なこと、イオン強度が低過ぎるとFAが断片化し、また高過ぎると運動は余り活発でないことなどが分かった。来年度施行予定である『滑り』運動中のミオシン頭部の電子顕微鏡観察に用いる試料の作成には従ってそれらの中間のイオン強度を用いることにする。筆者は既に、やや高めのイオン強度の溶液中においては、ミオシン頭部はATPがなければ長く伸びた形で、ある傾きをもってFAに結合し、またATP存在下では短く丸い形をとっていることを見いだしている。同様の形態変化が『滑り』運動に伴って観察されるかどうか非常に興味が持たれる。ATPを添加してから急速凍結に至るまでの時間を高精度で測るための装置は既に試作を終え、1ミリ秒の時間分解能をもつ。現在ケージドATPを実験系に導入するべく高輝度閃光装置の設計製作中である。一方、予備実験によれば、平滑筋から単離した細いフィラメントの骨格筋ミオシン上での『滑り』運動は溶液中のCa^<2+>の濃度により調節されるもようである。この調節に関連すると思われる成分カルデスモンは平滑筋のアクチン、トロポミオシン、ミオシンに対してそれぞれ別のドメインを介して結合し、そ れらのドメインは相補的に働いている可能性が考えられる。また一次構造上でのシステイン残基の位置を調べることにより、カルデスモンの分子長やコンフォメーションに関連するこれまでの研究結果の矛盾点を解消できた。
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