本研究は、ColE2およびColE3プラスミドを材料として、プラスミドに特異的な複製開始蛋白による複製開始機構を、遺伝学的・生化学的手法を利用して分子レベルで解明することを目指して行なわれたものである。以下にこの三年間の研究成果の概要を記すが、これらのうち最も特筆すべきことは、これらのプラスミドの複製開始蛋白がプラスミド特異的プライマ-合成酸素(プライマ-ゼ)であると判明したことである。 1.複製開始蛋白と複製開始部位との相互作用のプラスミド特異性は、複製開始部位(ColE2では32塩基対、ColE3では33塩基対)中の一塩基対の欠失・挿入および複製開始蛋白(ColE2では296アミノ酸、ColE3では303アミノ酸)のC末端に近い約20アミノ酸を含む領域内のアミノ酸配列によって決定されている。 2.部分精製された複製開始蛋白(純度約80%)を用いて、これが複製開始部位に特異的に結合することをフィルタ-結合法で示した。 3.大腸菌の粗抽出液を用いるin vitroのColE2とColE3複製系を確立した。DNA合成は複製開始蛋白および大腸菌のDNA合成酸素Iなどを必要とする。複製はクロ-ン化した複製開始部位付近から始まり、一定方向に進む。 4.最初に合成されるleading鎖のプライマ-RNAからDNAへの切り換え点を決定した。プライマ-RNAの構造はppApGpAと判明した。 5.最初に合成されるlagging鎖の3'末端は複製開始部位付近の一点であり、これが一方向複製の基本的機構であると考えられる。 6.複製開始蛋白、DNA合成酸素Iおよび一本鎖DNA結合蛋白のみにより最初のleading鎖合成反応を再構成する事に成功した。複製開始蛋白がこれまでに例を見ない新しいタイプのプライマ-合成酸素であることが判った。この蛋白の酸素化学的な諸性質を解析中である。
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