蛍光ストップトフロー法と蛍光顕微鏡画像処理法により、T細胞の免疫応答の初期過程の研究をおこなった。T細胞の活性化の初期過程の追究としては、細胞内カルシウムイオンの濃度変化に着目した。カルシウムイオンは蛍光色素(fura-2)を用いて測定した。fura-2を標識したヘルパーT細胞を予め抗原処理をした抗原提示細胞とストップトフロー装置を用いて混合すると、ヘルパーT細胞のfura-2の蛍光強度が急速に(1〜2秒)増大した。これは、T細胞抗原レセプターが抗原提示細胞上のMHC抗原(主要組織適合性抗原)と外来抗原を認識したことが引き金となり、細胞外からT細胞内にカルシウムイオンが流入したことを表していた。T細胞へのカルシウムイオンの流入には、MHC拘束性が見られた。自己と同一のMHC抗原と、外来抗原の両者が存在したときにのみ、T細胞にカルシウムイオンの流入が起こった。さらに、サプレッサーT細胞の機能解析も可能にした。サプレッサーT細胞の場合もヘルパーT細胞と同様に、抗原提示細胞と外来の抗原の存在により活性化され、細胞内にカルシウムイオンが流入した。しかし、予め活性化されたサプレッサーT細胞はヘルパーT細胞へのカルシウムイオンの流入を一方向的に阻害するが、ヘルパーT細胞はサプレッサーT細胞へのカルシウムイオンの流入を阻害しないことを見出した。 一方、蛍光画像解析装置を試作し、T細胞の細胞内カルシウムイオンの動態を単一細胞レベルで追究した。T細胞腫瘍(Jurkat)のシグナル伝達に関与するT3複合体に対する抗体を添加すると、十数秒のtime-lagの後に、急速に細胞内のカルシウムイオンの濃度が増大することを見出した。しかも、クローン化したT細胞でも、time-lagは幅広い分散があることが分かった。この装置を用いてヘルパーT細胞と抗原提示細胞の相互作用を単一細胞レベルで追究中である。
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