球状タンパク質はコンパクトなモジュ-ル構造の組み合せであり、モジュ-ルは遺伝子のエクソンとよく対応している。これらの事実は、遺伝子におけるエクソンのかき混ぜは、タンパク質レベルではモジュ-ルのかき混ぜであり、モジュ-ルはタンパク質の構造単位であると同時に、原子タンパク質の素材でもあった可能性を示唆している。この「モジュ-ル仮説」を実証することが、本研究の目的であった。モジュ-ル自体が単独でとり得る構造と、それが持ち得る機能を明らかにするために、モジュ-ルの化学合成、構造の実験的測定およびコンピュ-タによる解析を用いて研究の進展を企画、実行した。モジュ-ル合成に適したタンパク質として、我々は原核生物由来のリボヌクレア-ゼの一種Barnaseを選択した。Barnaseは少なくとも6個のモジュ-ル(M1-M6)から成ることを明らかにし、各モジュ-ルを化学合成し精製した。合成した単独モジュ-ルのCD測定を行い、M1とM2は親油性溶媒では安定なαヘリックスを形成することが分かった。水溶液中ではモジュ-ルM5がβシ-ト構造を形成した。これらの二次構造の詳細を解明するために、NMRとdistance geometry法を用いて、αヘリックスを形成するアミノ酸残基をM2について同定した。次にBarnaseのモジュ-ルを安定化する原子間力を、コンピュ-タを用いて解析した結果、水素結合はモジュ-ル内部で結ばれており、異なるモジュ-ルの間には極くわずかしか観測されなかった。この事実から、モジュ-ルのコンパクトネスを決める力として、水素結合ネットワ-クの重要性が示された。本研究の成果により、Barnaseのモジュ-ル内の3個が、溶液中で単独でも安定な二次構造をとることが、初めて明らかになった。この結果は単独モジュ-ルの機能の研究に向けて、新たな突破口を開いた。
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