塩化物イオンに基づくと予想されるブロンズ病発生のメカニズムを解明するため、各地域から出土した青銅(銅合金で銅、錫、鉛を主成分とする)製遺物に生成したサビの分析を実施した。その結果、大半の遺物からは塩基性炭酸銅(孔雀石)を検出した。その他、酸化第一銅(赤銅鉱)や塩基性塩化銅(緑塩銅鉱)を検出した。遺物の表層に形成される二次的生成物であるサビと地金金属部分を定量分析した結果大半の遺物では、表層のサビ部分に錫成分が濃縮されており、銅成分が溶出していることが判明した。腐食の激しい遺物では、地金の錫成分に比べて4倍くらい濃度が高くなっている。一般的な青銅製遺物は、錫の含有量は高くても25%以下であるが、腐食の激しい遺物の表層では75%に達するものもある。これらの遺物では、青銅製遺物でありながら、酸化第一錫が生成していた。塩化物イオンに基づく緑塩銅鉱の生成している遺物は、海浜地方から出土する遺物にかぎらず内陸地方の古墳から出土する遺物にも発見され、地域的な特性はみられない。また、土壌中に含有する塩化物イオン量が数10ppm程度でもブロンズ病が発生している例もある。ブロンズ病は、初期の段階で数10μ大の小さな孔食状のサビが酸化膜を破り無数に散在しておりそれが発生すると、より内部に生成している状態が観察できた。ただ今回の試料中からは、ブロンズ病の初期の段階で形成すると考えられる塩化第一銅は発見できず、今後とも詳しい分析が必要である。 また、出土した状態では、ブロンズ病が発見できなかった遺物でも、出土後自然状態で放置した遺物では新たにブロンズ病が発生することも見られ、酸素と水分が供給される環境下では大きく腐食が進行する。
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