古墳から出土する青銅(銅合金)製遺物の多くは、緑青(塩基性炭酸銅)に覆われている。これは密閉された環境にあるため二酸化炭素含有量と水分が多いためであると推定できる。実際に密閉された古墳には、外気の6倍程度の二酸化炭素が検出した。また、水に含まれる塩化物イオンは特例を除き十数ppmから数十ppmであった。また、遺物が埋蔵している土壌中には海岸などの特別な地域を除き数ppm程度しか塩化物イオンは含有していない。しかし、古墳から出土する青銅製遺物の多数から、量の小はあっても緑塩銅鉱を検出しており、塩化物イオンの影響を受けたことが判明している。遺物の表面を覆うさびには数%の塩素が含有していることがあり、長時間にわたり濃縮されたと推定できる。 一方、水分はあっても粘度に完全に覆われて還元状態にあった遺物の合は、緑塩銅鉱を検出せず良好な状態で出土する。調査の結果、塩化物イオンがあり、かつ酸化状態におかれていた遺物の場合は、確実にブロンズ病(内部での腐食を進行させ、スポット状の白緑色を呈するさびを生成する)が発生している。 銅、錫、鉛を主成分とする青銅は、ブロンズ病により大きく腐食すると大半が溶出し、錫や鉛が残存することも判明した。 これらの遺物の保存処理は、さびの除去と防錆処置および強化処置を行なう必要がある。従来さびの除去は機械的、物理的手法により行なわれていたが、今回新しく、高吸水性樹脂とぎ酸水溶液を使用する方法を開発し、鑛金製品にも実用化した。防錆および強化処置は、ベンゾトリアゾ-ルによる防錆皮膜形成とアクリル樹脂を減圧含浸する方法が最も現実的かつ効果的であった。電気分解による還元法により塩化物を除去する方法は効果的であるが、遺物の色調が大きく変化するため、実施できない。
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