霧島周辺村落の「かくれ念仏」信仰は、霊能者Nの激しい神がかりと深く関連しながら存続変容してきている。神かがりの中心場面は葬送後一週間以内を目途に死者の出た家で開かれる「御座」である。ここでNは神かがり、「お手引き先祖様」の力を借りて死者の霊魂を降ろし、生者と死者を交通させる。Nは「シケがかかる(神がかる)」と、欠伸を何度もくり返し、「オ-ッ」と腹の底から大声を発し、正座したまま畳の上で飛び跳ね廻り、胸の前に組まれた両手をドンドンと自分の胸めがけて打ちつづけているが、そのうちに死者になりかわり、声色も変わり座の人々と語り始める。語りの形式は死者になりかわったNが座の人々一人一人の名前を呼び、個々に語りかけ、それに人々が応答する形をとるが、その内容の大部分は生前の罪深い言動を後悔し、謝罪し、それらの言動を許容してくれたことへの感謝を表わすことと、生前受けた親切な行為に一つ一つ言及しそれへ深謝することからなっている。座の人々の殆ど全員がこの交通の過程で泣いている。「かくれ念仏」信徒は「御座」なしには死者は「死者の仲間に入れない」と言う。このような「御座」を共有しているのは信徒だけであり、仏徒はこれを行わない。 さらに、Nの神がかりと託宣は「寺元」(宗教的指導者)を決定したり、信徒のメンバ-シップの交代の契機になるだけでなく、信徒の病気治療および不安の立て直しにも機能している。 当該地域の「かくれ念仏」信仰は、霊能者Nの神かがりとそれへの強度の社会的信頼を核にして展開してきているのである。 「かくれ念仏」信仰は12の「流れ」に分有されているが、それらの「流れ」間には通婚圏の形成が観察される。仏徒と「かくれ念仏」信徒は通婚の場面でのコミュニケ-ションは希薄であったが、20数例現存する講組織は共有してきた。
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