研究課題/領域番号 |
63510028
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
沖田 行司 同志社大学, 文学部, 助教授 (20131287)
吉田 謙二 同志社大学, 文学部, 教授 (50066247)
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キーワード | 善の選択と実現 / ケアリング / 真心の回復 / もののあはれ |
研究概要 |
欧米諸国の興亡の歴史に貫流している「博愛」の理念と日本の近世以降に人倫の思想として自覚された「仁愛」とは、それぞれの社会形成にどのような役割を果たし、また、どのような意味を有しているのかを明らかにすることを目的として、次のような研究を行った。1.宗教改革期前後から近代までのヨーロッパ諸国、とくにドイツ、オランダ、イギリスにおける「博愛」の理念の展開の跡づけ。2.メイフラワー・コンパクトの実現に努力したアメリカの20世紀初頭までの「博愛」の理念の現実の実証。3.近世国学における日本ヒューマニズムの形成にみられる「仁愛」の理念の解明。 1については、「人間」の個別的なヒトから普遍的類概念への成長はポリス的人間の自由から、自然のロゴスによる必然性の洞察とその教養に基づく倫理的義務としての博愛(福祉を増進すること)を自覚し、神との関係による人間の自由を踏まえてそれを克服する近代的意志の中核に善の選択と実現が据えられるにいたる過程であり、「博愛」は人間が自己を実現して「人間」になるための必須の要件であることを理解した。2については、新大陸アメリカに移民した清教徒が神の前の平等を保障する明約を結び、その実現に努めた歴史の諸事象から、「博愛」の理念が人間の尊厳と政治、経済的な市民生活とを守り、人間相互のケアリングとして機能していることを解明した。また、3については、儒仏の外来思想を排して古代精神を復興する歌学革新運動の中で情緒的な価値感情が尊重された結果、人欲の自然性に着目する主情主義的な真心(「漢意」渡来以前の状態)の回復を目ざす人間観を生み、朱子学の「仁愛」は、人間の生得的な感性のうちに自己愛と他者愛とが一貫する構造をもった情緒的世界に依拠する非規範的モラルに変容し、「もののあはれ」という共観的原理として認識されるにいたったことを把握した。
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