16世紀中葉に日本にも輸入され、鎖国下でも出版されていた、いわゆる『イソップ物語』の研究は、テクストの原典を究めるものは多いが、挿絵とテクストとの相互関係について追求したものは皆無であった。本研究は特にこの点に着眼して進められたものである。 『伊曽保物語』は爾来、テクスト、挿絵上に様々な変更、修正を加えられたが、日本風にコラ-ジュされた動物図(画家の想像により、既知の形状を以て制作、あるいは『動物図譜』等から借用された)と、教訓譚としての日本化との間には興味深い相互関係が認められるため、その変更の方向性を捉え、画像とテクストとの影響関係を究明した。その際、ヨ-ロッパ各国で出版された、特に15世紀以後のインキュナ-ビュラ版等の版本と、挿絵・テクストのあり方を比較することによって、日本の近世イソップの物語の特質を明らかにしようとした。本研究では特に、万治2年に発行された整版本の絵入の『伊曽保物語』が一大中心となるので、これを寛永本などと比較して挿絵の記述を行い、万治絵入本の特質を究めた。収集したイソップ版本には、ナポリ版・トウッポ版・ヴェネツィア版・リヨン版等々のコピ-もあるので、これらとも比較することによって、江戸期の挿絵、及び挿絵とテクストとの関係を摘出しようとした。テクスト面では、「日本化された」教訓譚の、日本化の方向性を、テクストの内的構造との関連から追求し、テクストが挿絵にどのような規定をするのか、両者の影響関係を明らかにした。 副次的成果として、換喩の本質の一つを得た。すなわち、隣接性という点において捉えられている換喩がその起源としてもつのは、知覚性=視覚性である、ということであり、この本質を、挿絵というイメ-ジ=像と言語=テクストとの関わり合いにおいて究明し、ヤコブソンの考え方に批判を加えることができた、と考える。
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