本研究は、仏教図像の百科全書とも言うべき覚禅抄の成立に関して、その撰述に際して、特に重要と考える勧修寺系図像集の引用関係を明らかにすることにある。引用関数が明らかになれば、覚禅の時代をのぼって、図像の年代を設定することができ、その結果、図像の宝庫である覚禅抄は、仏教美術史においてさらに活用できる資料となる。 本年度は可能な限り多くの覚禅抄関係図像の写本を収集することを課題とした。そのため、調査出張に重点を置いて、醍醐寺・高山寺・奈良国立博物館・東寺観智院・東京大学史料編纂所・神奈川県立金沢文庫等の京都及び東京に旅費を使用して、調査を実施した。ただし調査予定の京都方面の寺院の調査公開日は年に数度と限られているので、公務の日程の都合で今年度の調査を、仁和寺、高野山の場合、見送らざるを得なかった。また調査許可の困難な勧修寺のような例もあった。割愛した分は他所での日程を多くとったため、全体の計画には支障はなかった。あらためて調査許可を申請しておいたので、次年度の調査は可能となるだろう。活字として公刊されている覚禅抄とは写本系統を異にするものもあり、目下整理を勧めていてる。また中には大正新修大蔵経の図像部には掲載されていない図像もあったので、現在、比較検討中である。 調査によって得た撮影資料は、リーダー・プリンターで焼き付け、整理に当たっている。本年度は調査による資料収集に重点を置いたため、本格的な諸本の引用関係の比較検討は実施できないが、資料の電算処理のため、コウピュータ打ち込みは取りかかることができた。 また、備品の書籍としては、図像関係とりわけ寺院所蔵の写本聖教の目録類を整備した。されらの目録によって、写本の系統を探索しつつある。以上のように、ほぼ計画通りに本研究は進捗しており、収集した資料の整理と調査の継続が次年度の課題となっている。
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