老齢動物の学習・記憶機能の特徴を明らかにするために行った前年度までの実験で、廊下式のT型迷路における遅延見本合わせ学習の成績が、老齢ラットと若齢ラットで顕著な差がみられないという結果が得られた。廊下式T型迷路での手がかりは自己受容感覚刺激が主であるという考察から、直角(90°)に曲がるという充分な自己受容刺激がある場合には、老齢ラットも若齢ラットと同様に課題解決が可能なのであろうと考えられた。 そこで本年度は、T型迷路よりも自己受容刺激がより少ないと考えられるY型迷路を用いて、上と同様の遅延見本合わせ学習を訓練し、老齢ラットと若齢ラットの学習成績を比較した。被験体はウィスタ-今道系の雄ラット(老齢群は14〜24か月齢、若齢群は2か月齢)で、食餌制限下においてから餌強化で、走行訓練、習得訓練、および遅延テストを行った。 その結果、老齢ラットの遅延見本合わせ学習の習得は、若齢ラットに比べて明らかに劣っていることが見い出された。とくに老齢ラットのなかには、全く学習の徴候を示さないものがいることが特徴的であった。しかし、反応の方略に関しては、老齢ラットと若齢ラットで差はみられなかった。 さらに遅延時間を挿入した遅延テストにおいて、遅延時間が長くなるにつれて老齢ラットの成績が若齢ラットよりも悪くなることが明らかになった。 以上の結果から、老齢ラットは用いる刺激手がかりが少ないような場面において、その手がかりを有効に使うことが困難になるという特徴を示すと結論される。
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