最終年度は純粋失読(pure alexia)の検討を続け、非古典型を中心とするII例の神経症状と病巣部位から、純粋失読の発現機序を論ずることができた(研究成果報告書参照)。この成果は、従来の主張の確認の範囲内のものではあるが、これまでのような腫瘍例や動静脈奇形例における外科的手術と脳梗塞例におけるX線CTによる病巣局在ではなく、MRIによる精密病巣局在の結果明らかにされたものである点に意義がある。 他にさまざまな病状を持つ多数の病例の検討が行われたが、その中から重要なものをあげれば以下の通りである。 1.失行を伴わない左半側失書例(left nnilatelal agraphid without aprdxja):9年間の教育歴を持つ74才右利きの男性で、右手の書字には問題はなく、左手は、失行がなく仮名が書け、漢字の模写の可能なのに漢字が書けない。MRIの正中失状断像で、脳梁幹の後半分に低信号域が認められ、脳梁の部分的切断によって漢字の選択的な失書が起こることから明らかにされた。従来漢字と仮名の漢字システムは、左半球内で別個の局在を示すことが明らかにされているが、本症例は、半球間伝導路でも両者が互いに独立していることを示唆するものである。 2.純粋語ろう例(pure word deafness):55才右利き男性で、失語がなく、環境音、音楽の認知はほぼ正常なのに、言語の聴覚的理解と復唱に著しい障害を示す。MRIにより、左側頭頂上葉皮質下に低信号域が認められ、Wernicke領野はほとんど正常であった。この病巣から、左聴放線と右聴覚野から脳梁を介する交連線維の双方が連合性に離断されたため、Wernicke領野が聴覚情報から孤立して純粋語ろうが生じたものと考えられた。 本研究では、MRIが離断症候群の実証に有効なことを示している。
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