視覚情報は、桿体・錘体の光受容によって発現し、網膜の興奮・抑制的神経回路によって3種の並列情報(明暗情報、赤-緑反対色情報、黄-青反対色情報)に符号化される。大脳に送られた情報はさらに分析統合され、形態、色、運動などの知覚が形成される。本研究では、低次の水準から高次のの水準までの各段階にあると考えられる知覚現象を選び、明暗・色彩情報とこれらの知覚現象への影響を実験的に究明することによって、形態知覚がどのような階層構造によって形成されるかを、また、形態知覚、色知覚、運動知覚が相互作用を検討した。本研究の結果は次のようにまとめられる。 (1)錘体過程・反対色過程・空間二重対立過程における情報変換機序 網膜から視覚皮質に至る視覚情報処理過程を、情報の抽出と効率的符号化という観点から検討した。光受容器である3種の錘体では、S錘体に比べL錘体とM錘体の受容する情報量は格段に大きい。この情報量の非対称性は、第一次媒介神経系である反対色過程で赤-緑系と黄-青系の構造の違いとして現われる。赤-緑系の情報処理過程では、predictive codingを基本とする並列処理により、形態と色彩情報の同時抽出を行なう。反対色過程の出力は、次段の空間二重対立過程で分析され、形態特性、色相特性、彩度特性に分離される。 (2)形態知覚、色知覚、運動知覚の相互作用 (1)形態知覚の基本要素の一つである輪郭線の知覚は、飽和度弁別特性と類似の特性を示し、赤-緑軸では生じやすく、黄-青軸で生じにくい。 (2)運動知覚の形成に、空間周波数要因が大きく影響する。
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