子ザルの行動発達と、母子間にみられる身体接触と分離の進行の経過を明らかにすることは単に母子関係を解明することにとどまらず、サル類の集団の形成と変容のあり方、換言するならばサル類の適応様式、を明らかにする上においても極めて重要な問題である。本研究において、行動発達研究の中で最も多く用いられる縦断的観察法と横断的観察法の特徴を明らかにすること、及び母子分離を手がかりとして母子関係をまた別の視点から解明することを目的としてなされたものである。 (1)カニクイザルの研究(主として南が担当)ーー母に向けられた幼体の行動のなかで、しがみつき行動と口唇部による乳首への関わり等に幼体の性の違いによる差異がみられ、母子の身体接触においてもこれらの行動には性差がみられた。また、幼体を抱く行動やグルーミング等の、幼体に向けられた母ザルの行動にも幼体の性差による違いがみられた。しかし、性差は行動の違いによって、あるいは月齢の違いによっても異なり、さらに多くのデータを収集する必要性がある。 (2)ニホンザルの研究(主として糸魚川が担当)ーー出生直後2、3日で、子ザルは、前肢が後肢よりも早く発達し全身で身体を引っ張るような這う行動を示す。また、この頃の子ザルは腹ばいから前肢で身体を支えるような姿勢をとるようになる。生後1カ月を経過する頃には歩行と走行がかなりの程度に可能となる。出生後1カ月を経過した子ザルはますます活発に動き回るようになり、3カ月の頃までにはかなりの運動能力を身につけ、移動様式や姿勢保持、あるいは食物摂取や体重増加をみても、出生後3カ月の頃は母子分離に対する子ザルの側の準備が整い、ニホンザルの行動発達における重要な時期のひとつであることが明らかとなった。
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