研究概要 |
子ザルの行動発達と、母子間にみられる身体接触と分離の進行の経過を明らかにすることは単に母子関係を解明することにとどまらず、サル類の集団の形成と変容のあり方、換言するならばサル類の適応様式、を明らかにする上においても極めて重要な問題である。本研究は、母子間にみられる多くの行動の継時的変化を明らかにし、また分離の経過と様式を手がかりとする、また異なる視点をとうして母子関係を解明することを目的としてなされたものである。 (1)カニクイザルの研究(主として南が担当)---母子の身体接触を、幼体の1週齢、1カ月齢、そして2-4カ月齢についてみると、1週齢では性差がなく、それ以後性差がみられた。母子の近接に関して、1カ月齢より性差がみられ(雄は雌の子2.6倍)、全体をとうしても雄は雌の約2倍と大きな差がみられた。雄と雌の子を持つ母の運動(位置移動)をみると、1カ月齢で雄の子を持つ母ザルの方が他の母ザルよりも多く位置移動を発現させていた。他方、子ザルの位置移動は全体をとうして雄ザルの方が多く発現した。このことは子ザルの性の違いによって成長・成熟に差異のあること、およびそれを背景として母子の活動性に違いを生み出していることを示唆するものである。そのほか、母ザルに向けられた幼体の行動、幼体に向けられた母ザルの行動にも幼体の性差による違いがみられた。しかし、性差は行動の違いによって、あるいは月齢の違いによっても異なり、さらに多くのデ-タを収集する必要性がある。 (2)ニホンザルの研究(主として糸魚川が担当)---出生直後2,3日で子ザるは腹ばいから前肢で身体を支えるような姿勢をとるようになる。生後1カ月を経過する頃には歩行と走行がかなりの程度に可能となり、母子分離に対する子ザるの側の準備が整う等、この時期はニホンザルの行動発達における重要な時期のひとつであることが明らかとなった。
|