我々の経験する世界は実にさまざまなものによって満たされているが、それらは決して個々ばらばらな存在ではなく、常に組織づけられ体制化された一つの全体として現われている。運動がこのような視覚的まとまりを作り出すときに、運動のもっている「共通運動性」「時空間的連続性」「因果性」が重要な働きを示すことが明らかにされた。これらを更に細かく分けてみると、"重なり""運動分岐""枠組み""奥行効果""空間的連続""層化完結""同一性保存""機械的因果結合""社会的因果結合"となる。これら諸要因が運動の視知覚体制化に深く関わっていることはこれまでに多くの研究者から指摘されてきたものであるが、しかし運動視知覚研究の実績が乏しい今日にあっていまだ充分な発展を見ないまゝにとどまっている。本研究の目的は、かかる要因が真に運動そのものに依存して起こるものであって、決して空間条件のみでは成り立たないものであることを明らかにすることにある。これまで、動かせばこのように見えるという報告はあるが、動かすことの本質は何かについての分析は皆無である。仮現運動の研究はこの問題に一歩踏み込んだものと考えられるが、それは現実場面から隔離された条件設定を余儀なくされてしまっている。本研究でストロボ視条件を採用したことは、現実運動場面で視知覚体制化に働いている運動要因そのものを消し去るうえできわめて効果的であること、国際的にみてもいまだこの面の研究は行われておらず国際会議での報告では他国研究者達に一層発展を期待されることにある。視覚的運動対象群を観察中、15Hz以下のフラッシュ頻度のストロボ照明に切り換えると、それまでの体制化は崩壊し新たなまとまりへの転換される。実験結果によれば、運動要因消失後知覚体制化に果す形態要因は"近接"であることが明らかとなった。今後この面での追求は、これまで知られなかった新たな側面を示すことになろう。
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