希釈ホルマリン溶液をラット、マウスの後肢背側皮下に注入すると、連続的な屈曲反応が生じることから、屈曲反応数を痛み強度の指標とし、さまざまな実験を行った。一般にホルマリン注入後20分から75分にかけて屈曲反応が高頻度で出現し、その後急速に消失する。但し、低反応動物ではナロキソン投与により約30分間活発な屈曲反応が見られた。ホルマリン注入後屈曲反応が最も安定して出現する30分後またその20分後にモルヒネおよびナロキソンを投与された動物では、モルヒネ1mg/kgは投与後5分以降の反応数を75%にまで抑制し、モルヒネ5mg/kgは完全な鎮痛効果をもたらした。こうしたモルヒネの作用はナロキソン1mg/kgにより逆転され、反応数はモルヒネ投与前のレベルまでに速やかに回復した。 以上から、こうしたホルマリン性屈曲反応を指標とする方法は、痛み反応を具体的な記録として測定するため、判定に際し客観性および確実性が保たれる。また、単一反応を指標とするため、同一の痛み成分の継時的変化を観察できる。さらに、麻薬性鎮痛薬に対して高い感受性をしめし、しかもホルマリンにより誘発される他の痛み反応に比べ、より長時間、一定レベルの反応量が得られるため鎮痛効力試験法として有用であると思われる。近年、動物に持続的な痛みを経験させる手段として、ホルマリン溶液の注入が広く行われるようになっているが、痛みの程度やその継時的変化の様相を行動的に正確に把握することが必要であり、本法はそのための有効な動物モデルであろうと思われる。 今後はこの方法によってストレス鎮痛やその他の種々な鎮痛法がいかに持続痛に効果を及ぼすかを検証する。
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