本年度は、評価的状況において失敗体験をした後、どのような認知的対処方略を用いて自尊心の低下を最小限にどどめようとするかを実験的に検討した。 この実験は女子大学生を被験者とし、まずアナグラム課題を行わせ、偽のフィ-ドバックを与えることによって失敗感を生起させた。この後Snyderの弁解理論に基づいてBasgall & Snyder(1988)が行った研究で用いられた尺度を参考にして作成した6つの尺度上に評定を求めた。これらは、それぞれの被験者が(1)他者も同じような失敗をしていると認知する、(2)アナグラム以外の課題だったら失敗の可能性は低いと認知する、(3)別の機会(状況)で行えば成績がもっと良かったはずと認知することによって、自らの自尊感情を高めようとするか否を調べるためのものであった。 以下の結果が得られた。 (1)6項目の合計点を「弁解得点」とした場合、被験者の自尊感情の水準と弁解得点の間に有意な正の相関(.5)が認められた。これは、自尊感情の高い人の方が全体的に弁解方略を用いる傾向が強いことを意味している。 (2)この傾向は「他の人はどれくらいできると思いますか」「他の人は課題をどのように解答していたと思いますか」という2つの尺度で特に顕著であった。すなわち、自尊心の高い被験者が上記3つの方略のうち“consensus raising"を用いたことが見出された。
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