眼球運動が人間内部の認知過程を反映し、刺激と反応の中間に存在する我々の情報処理過程の客観的指標になり得るとの仮定の下に、注視点移動軌跡(スキャンパス)を指標にして絵画記憶(Pictore memory)の生成・再現過程を分析した。 研究方法としては、視覚刺激の記銘・再認段階の眼球運動をアイカメラで記録し、注視頻度・停留時間・移動方向・移動速度・移動順序等と記憶パフォーマンスの関係を見た。そのための実験装置として既に構築済みのシステムに今回申請分の機器を組み込み、実験の半自動化と各種の統計値・グラフィックス表示を可能にするシステムを完成させた。このシステムは、(a)眼球運動測定・記録装置(NAC社製アイマークレコーダー一式、並びにVTR一式)、(b)製御・データ処理用コンピュータ一式、(c)刺激提示部、の3部分から構成されている。本システムを用いて具体的には以下の実験を行った。 (1)人間の顔の再認記憶と眼球運動の関係について (2)TATにおける反応内容と眼球運動の関係について (1)の実験では、記銘・再認段階で提示する顔写真の目もしくは口にマスクをかけて再認成績を比較した結果、とくに目の重要性が示された。この結果は同時に記録した眼球運動のスキャンパス分析でも支持された。 (2)の実験ではTAT図版の持つ刺激価を分析するための透視変換アルゴリズムを新たに提案することが出来た。 眼球運動のデータは測定の性質上、量的に膨大であり、処理をコンピュータ化する必要に迫られている。本研究では注視点の時間的推移をグラフィカルに表現するアルゴリズムを含むプログラムを独自に開発し、より精密な分析手段の提供を試みた点に特色がある。
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