日常的になれ親しんでいる内容をもった条件文(本調査では、例えば『母子の色が赤色ならば、中にミカンが入っている』)であれば論理的推論が児童でも可能であるとするスキーマ説を批判的に検討するため、いわゆる4枚カード問題を用いて、仮説演繹的推論能力の発達的調査を行った。具体的には、幼稚園年長児20名小学校各学年10名の計80名について条件文の解釈および4枚カード問題を課した。その結果、条件文の内容が如何になれ親しんだものであっても、条件文を条件法的に解釈したり、仮説演繹的に4枚カード問題を解決したりすることがほとんどできないことが確認された(小学5、6年生でも条件文解釈の正答率は10%、4枚カード問題のそれは5%であった)。さらに、子供の反応およびその理由の分析から、条件文の論理的推論が可能かどうかを問う以前の段階で多くの子供が既に躓いていることが見い出された。第1に、全称言明と特称言明との未分化で、4枚カード問題では条件文を4枚カードすべてに妥当する全称言明として与えているにもかかわらず、子供はそれを特称的に解釈すること、第2に否定言明の真偽判断の困難で、否定型真(例えば、赤い箱をさして、『これは黄色い箱ではありません』という言明の真偽を問うこと)に対して偽判断を下す傾向が特に幼稚園児や小学1、2年生に顕著であること、第3に、中立判断(真偽の未知の言明に対して真偽判断を留保すること)の困難で、4枚カードの各裏側は未知であることを前提にしているにもかかわらず、子どもはしばしば与えられた条件文の内容から、カードの裏側を勝手に推測し、条件文の真偽を判断してしまうことが明らかにされた。以上の結果から、児童期では仮説演繹的に推論することは身近な内容であってもまだ無理であり、仮説演繹的推論の成立以前における子供の論理的推論の複雑なメカニズムを解明する必要のあることが示唆された。
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