視覚性認識の脳内機序仮説としての連続的情報処理仮説の妥当性を行動学的に検討した。 1.被験体として6頭のマカクザル(アカゲザル及びニホンザル)を用いた。3頭のサルにつき、視覚前野皮質のうち下部側頭回に神経繊維の投射を行う領域を全摘除した。他の3頭のサルは手術統制群とし、下部側頭回皮質の全域摘除を受けた。皮質摘除は吸引法により、両側性に、無菌的に行った。 2.テスト装置はウィスコンシン式一般テスト装置の一部改良型を用いた。使用テスト課題は、(1)パターン弁別課題、 (2)継時的単式物体弁別課題:つぎの課題(3)の統制課題、 (3)同時的複式物体弁別課題:視覚性認知記憶課題。課題(1)は術前に学習させ、術後の把持を調べた。課題(2、3)は術後初学習とした。 3.(1)視覚前野皮質のうち下部側頭回に線維投射する領域の完全摘除により、下部側頭回皮質摘除に匹敵するパターン弁別障害が生じることが明らかになった。この障害はパターン弁別中枢野である下部側頭回後半部への視覚情報遮断によるものと考えられる。 (2)単純な継時的単式物体弁別学習でも障害がみられた。これは視記憶中枢野である下部側頭回前半部への視情報遮断によると考えられる。 4.視覚前野皮質摘除により、課題により、下部側頭回皮質摘除に匹敵する障害が生じる事が見いだされたが、行動観察によって、重度の要素的感覚障害の存在も示唆された。視覚前野皮質摘除による弁別障害が感覚障害によるものではなく、下部側頭回への視覚情報入力遮断によると結論するためには、格子縞弁別等の感覚テストを導入し、視覚前野皮質摘除ザルが、使用されたパターンの構成要素の弁別には十分な視力を有していることを証明する必要がある。
|