視覚性認識の脳内機序仮説としての連続的情報処理仮説の妥当性を行動学的に検討した。 1.被験体として9頭のマカクザル(アカゲザル及びニホンザル)を用いた。3頭のサルで視覚前野皮質のうち下部側頭回に神経繊維の投射を行う領域の摘除を、他の3頭で下部側頭回皮質の全域摘除を行った。皮質摘除は吸引法により、両側性に、無菌的に行った。残りの3頭は無手術統制群とした。 2.テスト装置はウイスコンシン式一般テスト装置の一部改良型を用いた。使用テスト課題は、(1)パタ-ン弁別課題、(2)継時的単式物体弁別課題:つぎの課題(3)の統制課題、(3)同時的複式物体弁別課題:視覚性認知、連合記憶課題。(4)各試行毎に新奇物体対を用いる遅延見本合わせ課題:視覚性認知記憶課題。課題(1)は術前初学習させ、皮質摘除後に保持テスト、再学習を行った。課題(2、3、4)は術後初学習させた。課題(4)では、遅延時間10秒の基本課題学習後、遅延時間を30秒、更に60秒に延長して、100試行中の正反応率を調べた。 3.全てのテスト終了後、摘除ザルの脳の前額断切片標本を作製し、各摘除域の組織学的検討を行った。 4.視覚前野皮質の摘除により、課題(1)において、下部側頭回皮質摘除に匹敵する障害が生じた。この障害はパタ-ン知覚中枢野である類似の下部側頭回後半部への視覚情報遮断によるものと考えられる。課題(2、3、4)でも、下部側頭回皮質摘除に障害が生じたが、課題(3、4)での障害は下部側頭回摘除に比べれば軽かった。この知見は、視覚性認知、連合記憶中枢である下部側頭回前半部が、視覚前野摘除後にも、部分的にではあるが、機能していたことを示唆する。
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