「飯場」は、今や死語である。「作業員宿舎」と名称を改めて久しいし、その共同宿舎も労働者の個人主義化の風潮に伴い、アパートメント化の傾向が著しい。また、一口に建設労働者と言っても、その業種、職種、下請け段階に応じて、その態様は全く異なっている。所期の研究目的からすれば、〈鳶土工〉を研究対象とするのが最適と思われるので、現在その方面へのアプローチを試みている。それと関連して注目すべきは、〈鉄筋工〉である。これらの職種は、労働力供給源としての「寄せ場」との関連性が強いからである。他方、これとは対照的な気質と就業形態を示しているのが、〈型枠大工〉である。その存在形態についても、比較の観点からアプローチを予定している。全般に建設業界においても、狭義の出稼ぎ労働者は激減している。従って表記の研究課題は、必ずしも現状に合致しない。それに代って大きくクローズアップされるのが、〈外国人労働者〉の問題である。「不法就労」の陰で、残忍な犠牲が強いられている事情を注視する必要があるが、その実態に触れるのは困難を極める。本研究は労働現場の視察や面接聴取による実態調査を眼目とするが、実はそれ以前に、建設下請け労働全般のメカニズムについて究明するのが不可欠であることが判明した。建設労務担当者からの聴取および文献資料の探索により、その概要は把握することができた。ただ、複雑怪奇を極める建設業界と建設労務にあっては、その統計数字は実態と著しくかけ離れており、従ってそれを根拠にした分析や理論も、必ずしも実情を正しくとらえていると言えない。その欠を補うためにも、ゼネコン→専門工事業者→二次下請け→〈人夫出し〉→手配師の下請け系列を辿って建設労働者の労働と生活の実態に迫ることには、大きな意義がある。そこに必然的に絡んでくる寄せ場差別、職業差別、教育差別、民種差別、部落差別などの相互連関構造を凝視したい。
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