本研究は、中央レベルの政治過程に比べて従来軽視されがちであった地方政治過程のダイナミックを明らかにすることを狙いとした。そして、その手掛かりとして、通常では不可視の政治過程が一挙に顕在化するところの地域社会粉争を素材としてケ-ス・スタディを行うこととし、具体的には、京都市の古都保存協力税問題を選んだ。 研究の成果として、次の3つを挙げることができよう。 1.各地の地方議会で近年しばしば見られるオ-ル与党(多数与党)体制においては、首長、官僚、議会の「三竦み」的関係がこれら三者の利害関係の安定を導いていること、また反面では、政治を市民の手の届かぬものにしていることを明らかにした。 2.社会科学が苦手とする具体的個人の理論への導入の端緒ともなりうるものとして、首長論の研究を進めることができた。 3.2の研究を支える理論としての「媒介者論(媒介権力論)」を古都税問題というフィ-ルドにおいて検証し洗練することができた。 社会学は、「具体的行為者」よりも規範・規則あるいは機能(役割)といったものが優先するシステム内関係を主たる分析対象としてきた。これに対し、「媒介者論(媒介権力論)」は、規範・規則あるいは機能(役割)といったものが不明確なシステム間関係に注目する。システム間関係においては、そのシステム間関係における規範の希薄さを穴埋めし、システム間のコミュニケ-ションを架橋(媒介)するという働きをするものとして「個人(媒介者)」の存在がクロ-ズ・アップされてくる。こうした現象に着目することによって、媒介者論は具体的個人を理論的に扱うことができるのである。
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