本研究では、精神遅滞社のバランス保持困難の要因を明らかにするため、1バランス保持の生理的基礎である傾斜反応と2視覚によるバランス調整の2点について、精神遅滞社の障害の様相を調べた。傾斜反応に関しては、緩徐な傾斜速度に対するものと、急激な傾斜速度に対するものとに分けて検討した。具体的には、精神遅滞者30名 (15〜50歳) を対象に身体に加える傾斜ょ角度計 (緩徐な傾斜速度) 、傾斜落下台 (急激な傾斜速度) により制御し、その時の身体の動きをビデオ記録した。そして、フレームコードジェネレーター (ソニー製) を用いて1/30秒ごとに頭部の立ち直り、膝関節の屈伸の程度を解析した。その結果、急激な傾斜速度の際よりも緩徐な傾斜速度の際にバランス保持に大きな困難を示す者がいることを確認し、そうした者では急激な傾斜速度の際には頭部の立ち直りと傾斜に適合した膝関節の屈伸が見られるのに対し、緩徐な傾斜速度の際には見られないことを明らかにした。これらの者の一部 (3名) を対象に緩徐な傾斜速度に対する頭部の立ち直りと傾斜に適合した膝関節の屈伸を教示する形成実験を行なったところ、即座に反応が改善され、ゆっくりと身体を動かした時にも十分バランスがとれるようになる者 (2名) がいる一方、示範を加えても反応に改善が見られない者 (1名) とがいることがわかった。一方、視覚とバランスに関しては、精神遅滞者 (15〜50歳) 40名と視覚障害者 (6〜18歳) 40名を対象に平均台歩き、片足立ちの測定を行なった。その結果、視覚障害者では動的バランスの指標である平均台歩きの成績が著しく低い者が多く、動的バランスには視覚的な調整が特に必要であることがわかった。精神遅滞者で視覚障害者と同様に平均台歩きの成績が特に低い者は、開眼時と閉眼時の成績に差のない者が多く、視覚的なバランス調整が有効にはたらいていないことが示唆された。
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