本研究では、1975年以降の「削減期」、すなわち学生人口減少期における現代アメリカ高等教育が、この10年間に、その構造をどのように変容させ、いかなる解決課題を内包するようになったかを、主として1975年と84年に実施された全米規模の高等教育に関する意識調査の統計的な再解折により、体系的、重層的に明らかにすることを試みた。本年度の研究作業と成果の要点は次の通りである。1.アメリカ高等教育システムの特質を、文献研究により分析した。OECD諸国、とりわけ日本と比べると、アメリカ高等教育システムは、(1)自主的な大学の管理、運営の伝統、(2)柔軟で相対的に「開かれた」システム構造、(3)ゆるやかで「多元的」な大学間ハイアラーキー、(4)学部教育における教養教育の重視などの特徴を有しており、学生人口減少期における制度的対応を強く規定している。2.カーネギー教育振興財団が1975年と84年に、大学教員と学部学生を対象にして実施したアメリカ高等学育に関する4つの全国調査の再解折を行うことにより、アメリカ高等学育における(1)制度的多様化の進展、(2)大学構成員(大学教員、学部学生)のDemographicな基礎的特性の変容、(3)高等教育機会の平等化と質の維持の問題などについて解明した。たとえば(1)では、研究志向大学と教育志向大学の間の大学間較差が進行して、制度的多様化がいっそう進展したこと、(2)では、大学構成員の基礎的特性が、成人学生やマイノリティ学生の増加に伴って多様化し、ますます「教育」の重要性が高まってきていること、(3)では、大学間ハイアラーキーの中間に位置する大学院大学と総合大学で、平等性と卓越性の2つの圧力が交差し、さまざまな問題をひきおこしていることなどが明らかにされた。
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