研究課題/領域番号 |
63510143
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
岩橋 法雄 鹿児島大学, 医療技術短期大学部, 助教授 (20108971)
|
研究分担者 |
小栗 実 鹿児島大学, 教養部, 助教授 (90144104)
|
キーワード | 社会民主主義的コーポラティズム / パートナーシップ / ディスラプティヴ / GCSE試験制度 / プライヴァタイゼーション |
研究概要 |
ケインズ=ベバリッジ体制とサッチャー体制との相克を歴史的及び現実態的に、教育政治の象徴的な対決的問題であるコンプリヘンシヴ・スクールに焦点をあてて分析を試みた。コンプリヘンシヴの実態が、今日だけではなく、その計画の推進当初からも、決して労働党=機会均等(コンプリヘンシヴ)と保守党=エリート主義(グラマースクール)という単純なイデオロギー図式で概括されるものではないことを明らかにした。このことは、今日のサッチャーの教育政策、具体的にはベイカー教育科学相の名が冠せられている1988年教育法の基本的性格を定位するのに有効である。ベイカー教育改革は、一言でいえば私化のストラテジーである。肥大化した教育・福祉部門を民営化し、国家財政の関わりを縮小し、かつ国際競争に耐える産業部門への人的能力のリクルートと開発を教育内容・水準のコントロールによって確保しようとするものである。イギリスの教育制度の運営の特徴であった地方教育当局の自治を制限し中央集権体制を強めることが、その教育内容・水準のコントロールの制度的保障として実施された。ILEA(内ロンドン教育当局)が解体されたのはその象徴である。ここで注目しなければならないのは、そのような改革が次々と具体化されていったのかである。日本のイギリス研究の大方の視角はもちろんのこと、イギリスにおいても、労働党と保守党のイデオロギー的対抗図式観が未だ支配的であったこと。しかもイギリス特有の政権交替すれど政策の実態的継続という経験的観念の強固さのゆえに有効な反対勢力を国民的な課題として形成しきれなかったといえよう。サッチャーの対抗相手は決して社会主義・平等主義イデオロギーを党是とする労働党ではなく、社会民主主義的なコーポラティズム体制として福祉・教育体制を確立し、肥大な国家財政の支出を容認してきた労働党と保守党のパートナーシップなのである。
|