本年度は、米国各州に展開している多様な教科書行政の実態を把握するため、特に州集権的教科書行政機構を有する典型州としてカリフォルニア州を取りあげ、同州教科書行政の歴史的変容過程を事例的視点から分析、考察することによって、米国教科書行政の一類型を解明することとした。 その結果、特に州集権的類型に属するカリフォルニア州では、伝統的に州政府の規制機関としての州教育委員会に、教科書行政を始めとする公教育全般にわたる極めて大きな権限が付与されていた。ところが、1920年代後半頃より、素人集団としての州教育委員会に必然的に存在する専門的識見の不足を補うため、教育課程及び教材選定の専門領域においてその補完的役割を担う専門家委員会、州教育課程委員会が設置され、より能率的、合理的、教育的業務遂行が達成されるようになり、それまで州集権的形態の教科書行政がかかえていた弱点補強に有効に作用することとなった。 米国における多様な教科書行政の一類型と考えられる、州集権的教科書行政制度は、事例的視点のカリフォルニア州からの分析に関する限りではあるが、上述専門委員会の設置及びその構成と精力的運営を通して、地方学区や現場教師、あるいは一般納税者の多様なニーズを可能な限り反映しようとしており、その意味においては、法制度上は州に権限が集中する形態を有するものの、極めて民主的なシステムとして機能しているといえる。 この民主的構成と運営が、伝統的にアメリカにおいて発生、成長してきた地方自治的、あるいは地方分権的教育行政の理念と直接対立することなく、むしろそれと合理的に協同しながら、州集権的教科書行政機構を保持し得てきた大きな原動力となったものと考えられる。
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