授業は、知識や技能を習得する場であると同時に、人間形成の場である。特に、長期入院児にとって授業は、教材を通じて人と出会ったり、物を創ることによって様々な経験をする重要な場である。長期入院児は、病院で身体活動の制限や生活上の様々な規制を受けている。長期入院児は外に出ておもいっきり体当りして物事を知るという機会も少ない。長期入院児にとって授業は、直接経験しなくても、教材を通して考え、想像することによって体験していくことができる。また、授業の場は、長期入院児にとって他者の存在を意識しながら自己表現することによって自己の在り方を変えていく重要な機会でもある。自己変革の場としての授業は、将来社会に出るときのための準備ではなく、長期入院児にとって、いまここに正に生きつつある形において意味のあるものでなければならない。 本研究では、病弱養護学校の高等部の精神遅滞を伴う筋ジスの生徒(重複障害学級)の「養護・訓練」の授業を研究の対象とした。一人の教師が描いた絵(合計10枚程描かれた)をめぐって、教師と生徒が語り合う授業であった。生徒のケ-スカンファレンスや授業逐語記録を分析した結果、以下のことが示唆された。1.教師と生徒が授業で直接的な関係を結ぶには、教師のオリジナルな教材を用意する必要がある。2.オリジナルな教材での授業は、教師と生徒が共有の世界を創造することが可能になる。3.授業は、生徒の非日常が現れやすく、授業を通して日常の問題を克服することができる。4.生徒の自己表現が人生を拓くものにつながっていくことがある。5.授業は、生徒にとって、浄化(カタルシス)と癒し(ヒ-ル)の力を備えている。
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