沖繩の長寿には多くの側面があるが、今回の共同研究では長寿文化を考える際の一つのキーコンセプトである。「カジマヤー」を中心に調査研究を行った。カジマヤーとは数え年97歳に達した老人を周りの人々が祝福する儀礼であり、日本本土にはなく、沖繩にのみ存在する長寿儀礼である。先ず歴史的に見ると、17世紀以降中国との交流が盛んになるにつれて、中国の老人福祉政策が導入されてきた。とりわけ近世琉球の政治家蔡温は、「老人は世上の宝」であることを強調して、敬老思想を広く民衆の間に普及せしめた。また王府の成文法である「琉球科律」では、70歳以上の年齢に応じてその罪を緩和する老人特恵措置がとられるなど、沖繩で長寿者を大切にする風潮はすでに18世紀にその基盤が確立していたことが判明した。次に宗教社会学の立場から、沖繩各地でトーカチ、カジマヤーの長寿儀礼の参与観察を行い、併せて村落芸能や年中行事、祭祀における老人たちの役割および老人像の実態を把握した。その結果、【○!2】長寿者は神に近い存在である。【○!2】呪術的宗教的力をもつ。【○!3】長寿者に「あやかる」という考え方が社会全体に定着している。【○!4】長寿者を中心とした社会のまとまりがみられる、などの点が明らかになった。 以上の点を総合して、沖繩には長寿を生み、長寿者の生活を支え、長寿者を疎外せず社会の一員として処遇し、そして社会全体でその長寿を祝福していくような生活様式、つまり『長寿文化』が存在すると思われる。その内容は上述した諸点を除くと以下の通りである。(1)長寿者を誇りとする考え方が強い。(2)老人が弱者ではなく、社会の現役として価値ある存在である。(3)高齢者が主役となる「ハレ」の場が多い。(4)老人の一人暮らしや夫婦二人暮らしを可能にするような相互扶助のネットワークがある。(5)琉球文化を保存し、次世代に伝達する役割を老人たちが担っている。
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