1文献資料とともに、伝承資料を用いて大工職人における集団組織の実態を探ってみた。民俗学的方法による調査地は、岩手県陸前高田市である。 2同市では、古くから気仙大工と称されている出稼ぎ職人がいる。この職人は、近世的な大工組や大工仲間としてひとつの集団にまとまっていた、という記録はない。それは気仙地方の集落そのものの分散状態と深い関係があるものと思われる。職人たちは、北海道・首都圏などで出稼ぎをしている。同市には、各地域毎に職人の組織としての職人組合がある。その名称は、以前には職人組合と称していたが、現在では1地域は職人組合、他の6地域は時代の流れによって職工組合と呼ばれている。各地域における職人組合の連合体が陸前高田市大工・左官工業組合連合会である。職人組合は、大工・左官・畳屋などの職人によって構成されている異職型組合であったが、現在では大工・左官の2職種によって構成されている。また、大工・左官の出稼ぎ職人で大工・左官親交会が組織されている。この組織は、昭和27年、公共職業安定所長の勧めにより結成された。その目的は出稼ぎ職人の社会的地位の向上、親睦などである。はじめは大工のみの組織であって、大工親交会と称していたが、のちに左官もその組織に加入し、大工・左官親交会と呼ばれるようになった。なお、左官も気仙左官と称され知られている。親交会は大工・左官の2職種で構成されているので異職型である。職工組合と親交会の関連はきわめて深い。 3将来の課題 市内における各地域の職人組合について比較し、それぞれの組合の特微を明らかにしたい。また、職人組合と深い関連のある団体、例えば、職業訓練協会・技能士会・建築士会・建設業協会・商工会・民主商工会などについても、その実態を解明したい。
|