この研究は寒冷地である北海道の冬の生活にとって重要な要素であった冬期保存食について、1)伝統的な日本の食習との関連.2)東北地方にうけつがれた救荒食との関連.3)開拓使による欧米文化の導入に伴なう洋食との関連.4)アイヌ民族の冬期食物との関連の四項目によって調査を実施し、北海道における食習の基本的性格を明らかにすることを目的とした。 このため北海道を、近世からの歴史をもつ函館市を中心とした道南地方及びこれに続く漁村部、欧米文化の導入の影響を大きくうけた札幌市を中心とする道央地方、寒冷な気候のなかで稲作定着させた旭川市を中心とする道北地方、さらに畑作農業を発展させた帯広市を中心とする十勝地方の四つに分け、冬期保存食の種類、保存法、加工法などの調査を実施した。また伝統的な日本の食習との関連を、酒田市、輪島市など近世北前船の主要港であった地方、さらに移住農村との対比として富山県礪波市、秋田市などで同様の調査を実施した。 この調査によって、北海道各地の冬期保存食及び保存法の形式と変遷が明らかとなり、これまで同種と考えられていた農村部においても稲作地帯と畑作地帯では極めて大きな違いを示すことが判明している。また、地域による系譜をみるとどの地方でも東北、北陸地方の冬期保存食をうけついでいるが、時代や生業形態によってそのうけつぎに大きな差がみられる。このほか北海道独自のものとしては、干鮭などアイヌ民族の冬期保存食が移住者の冬期食物としてとり入れられていたこと、三平汁など北海道の名物料理の多くが冬期保存食の調理法が原点であったこと。生野菜の保存が難しいため沢庵漬など一種類の漬物を大量に用意したこと、札幌市など都市部の冬期食物の保存に比較的早くから欧米の保存食の影響があったことなどが明らかとなっている。
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