本研究は、おもに東北地方における天明・天保の飢饉に関して民衆生活史的観点から分析を行い、従来の幕府・大名の政策史的研究をのりこえようとするものであるが、そのためにはこれまでよく使われてきた飢饉史料だけでは不十分であり、ひろく関係史料を調査・収集し、史料の集積において満足が得られる必要がある。三か年計画のうち初年度はまず史料の収集に全力を注ぎ、国立国会図書館、国立公文書館、福島県立図書館、宮城県図書館、山形県立図書館、岩手県立図書館、秋田県立図書館、青森県立図書館、市立弘前図書館、といった主に国立・県立レベルの図書館が所蔵している飢饉関係史料の収集に努めた。県史・市町村史誌や近世の藩政・農村史料がおもな対象である。これらの図書館の収蔵史料の閲覧も短期日のため未見・見落としの史料が少なくないと思われるが、それでも想像を上回る多数の史料を複写・フィルムのかたちで集めることができた。地方史誌類の編纂事業の進展による恩恵といえるが、それだけに今日の飢饉研究の水準がこれらの新史料の紹介を救い上げるにはいたっていない現状を痛感させられた。史料収集にあたっては、文書・記録といった文献史料にとどまらず、飢饉供養塔といった類の「もの」資料や、民話・伝説等の伝承資料にも留意し、それらに関する文献から拾い出す作業も合わせて進めている。これまた集積してみる価値の手ごたえを感じている。本年度の活動はこのように史資料の収集とその整理に費やされた感がある。次年度では史資料の調査・収集をさらにおしすすめ、まだ訪れていない資料館・図書館を調査するとともに、「もの」資料の実地調査も試みたい。また、本格的な史資料の分析に入り、人喰などにみられる「餓鬼道」の実相、乞食と非人小屋、打ちこわし・騒動にみられる制裁行為、ムラの機能、権力の対応、都市への影響、供養・魂の救済など、いくつかの視座を設定して考察してみたい。
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