税役制は当該時代の経済・社会・政治全般に関係する。それ故、まず論文 「馬車と牛車とにおいて支配階層の存在形態を探り、秦漢時代全体を理解するための一基礎研究とした。次いで論文 「中国古代の商と賈」 において、前漢武帝代に実施された商工業に対する特別税の内容を確定するためにも、中国古代で使われている商と賈という言葉そのものを吟味し、商は行商、賈は店舗商人とする通説的理解は誤りであり、秦漢時代の専業商人を指す法制上の用語は賈及び賈人であったこと、及びそれにも拘らずなぜ儒学者によって通説的理解が主張されたのかについて思想史的背景を解明した。これによって税役史料上に見える商と賈を分析するための確かな理解を得ることになった。また論文 「前漢武帝代の三銖銭の発行をめぐって」 によって、武帝代発行の三銖銭の発行年次を確定した。これは武帝代の財政・税徴収に関係する問題である。論文 「 『水経注』 引用の 『魏土地記』 について」 は前漢代の塩の専売を考察するための基礎研究の一つで、塩官設置状況確定のために朔方郡朔方県に塩官があったか否かを考察した。そして論文 「王林十簡と王杖招書令」 は、税役免除を意味する復除という言葉が、本来役の免除だけを意味したものがいつから税の免除も含意するようになるのかという問題解決のための基礎研究であり、税役制研究上極めて重要なこの2史料を分析したものである。これら刊行した成果とは別に授業などの形を通じて基礎研究を進めたが本年度は田租と関税を中心とした。田租についてはそれに関係する諸問題を解明し、また徴収が規定されていた田律についてもその考察を行った。関税については関の設置状況及びその官僚機関にも含めた全般的考察を行い、漢代においては後漢後期を除き財政関税は実施されていないことなどを明らかにした。田租・関税に関する成果はすぐにも発表できる状況にある。魏晋以降は基礎研究を断続中。
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