前年度に引き続き、奏漢時代の税役制に関わる諸問題を多方面から検討する作業を進め、ほぼ十分な成果を挙げ、次年度に報告書の形で発表しうる準備はととのった。今年度は、学会発表として、「奏漢時代の工官」と題して古代学協会東北支部大会で、また「奏漢時代の金・布帛・銅銭」と題して東洋史研究会大会でそれぞれ発表した。前者は財政収入の一環を占める官営手工業を検討したもので、官営手工業と民間手工業者との関係も論じたが、これは手工業税収入と関係する。後者は漢代貨幣史全般に関わるものであり、これによって税収入と貨幣あるいは貨幣的機能をもつ諸物との関係が一層明白になった。論文「奏漢時代の復除(一)は本研究の最も重要な基礎作業の成果であり、税役免除に使われる復除という用語のうち、奏代の復は本来的には家を離れて徭役兵役に従事した者を家に帰す、役の免除を意味するものであったことを明らかにした。次年度発表予定の(二)によって、漢代にはそれが拡大して税の免除にも使われるようになることを論ずるつもりである。「『漢書』の「資料」を求めて」は、その(二)を論ずるための史料論的基礎研究でもある。英文論文は、奏代の工官・市官・田官を論ずことによって、手工業税・市税及び田租などがどのらうに徴収されるかについても触れたものである。また講義においては奏・前漢時代の財政収入全般を再検討し、それにって税役問題にかんする若干の新見解を得ることができた。要するに個別的側面からと、全体的側面からと、ともにほぼ当初の計画通りに研究を勧めることができたのである。なお魏普以降の税役制については史料上の問題もあるために基礎研究を継続中である。
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