前年度に引き続き、秦漢時代の税役制に関わる諸問題を多方面から検討する作業を進め、その成果を、重要な論点に対する検討結果の要約という形で、かなりの分量の報告書にまとめた。今年度発表した論文「秦漢時代の復除(二)」は、本研究の最も重要な基礎作業の一つである、「復除」という役や税の免除に関わる言葉の変遷について、漢代での展開を解明し、本来、役・兵役の免除に用いられたものが、前漢時代の後半には税の免除にも用いられるようになり、後漢代ではそれが一層拡大したこと、またこのような税役免除の対象者を分類整理した。これを以て復除に関する研究を終えた。また「後漢における貨幣経済の衰退」と題して、東北中国学会39回大会で発表し、後漢代税役収入検討の基礎として、後漢一代を通じて貨幣経済が衰退してゆき、末期には良銭と悪銭による貨幣的二重構造が生ずるに至ったことを論じた。また税役制の背後にある思想問題のなかでも、とりわけ儒教の影響が問題となるが、その儒教が国家数学となる諸要因を追究したのが論文「儒学の国教化」である。これらの関係する成果とともに、最終年度として全体的叙述を行ったものが本報告書である。このなかで、学説史的検討、田租・蒭藁税、賦の意味、算賦・算緡・告緡、徭役・兵役、その他の諸税としての口銭・山沢園池の税・市井の税・関税、国営商業、塩鉄専売、及び前漢末段階の税役収入の概算などについて、要約的に述べた。そのなかには、塩鉄専売の基礎史料に対する新見解も提示されている。要するに、秦漢代の税役制研究に関しては、ほぼ当初の目的を達成することができたといってよい。ただ、比較のために検討を進めた魏晋以降の税役制については、基礎史料の整理分析を進めたものの、基礎作業のレベルにとどまった。
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