本年度は、今般新しくイスタンブールからもたらされたラシード・アッディーンの『集史』と『五族譜』を印画し、また本研究課題にとって重要な史料の一つであるジュワイニーの『世界征服者の歴史』の一写本のマイクロフィルムを取寄せた(他の写本も取寄せつつある)。そして前2者について整理を行ったが、これらは頁等がないので、予想外に作業に時間を要した。同時に『集史』をイスタンブール本以外の写本と比較しながら、「チンギス・ハーンの祖先の物語」や「チンギス・ハーンの物語」それに「部族篇」の読解を行った。手書きの写本を読解することは容易でないが、ペルシヤ語圏の人物の援助を得て、従来の読解に増して正確を期して読解翻訳できた。このようにして、今まで数年間の分と合わせて、今年度で「チンギス・ハーンの祖先の物語」と「チンギス・ハーンの物語」の部分は、ほぼ読み終わる見通しが立った。「部族篇」については、約3分の1を読んで、残余部分は次年度に読むことになる。 本年度はまた『モンゴル秘史』を他の関連史料と精密に比較検討するために、ローマナイズした形でパソコンにインプットした。次年度には他の史料も順次データとしてパソコンにインプットし、リレーショナル・データ・ベース・ソフトを利用して、それら相互の精密な比較検討を行う予定である。 以上のように本年度は研究が多く中途の段階にあるため、これといった具体的な成果をあげていないが、ただ従来分析した「コイテンの戦い」について改めて検討し、モンゴル帝国成立過程におけるその重要性を意義づけて、口頭で発表した。
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