今年度は、史料の収集については、国内に蔵されているモンゴル帝国史関係のいくつかのペルシア語文献を、複写等の方法で収集した。 史料の整理・読解の点では、前年度に引き続きペルシア語圏の人物の援助を得て、『集史』のイスタンブ-ル写本を中心に据え、その他の写本や校定本を参照しつつ、それを行なった。そして前年度に読了に近づいていた「チンギス・ハンの祖先紀」、「チンギス・ハン紀」を読了し、「部族篇」も読了し、さらにまた「ジュチ・ハン紀」も読了した。大いに成果をあげたと言える。並行して、これも前年度から進めてきたモンゴル文根本史料である『モンゴル秘史』のロ-マナイズと和訳の作業を鋭意行ない、ロ-マナイズはほぼ終了し、和訳も半分程度行なった。そして、これら2史料および同様にモンゴル帝国史の基本史料である『皇元聖武親征録』、『元史』太祖本紀の合計4種の史料の、当面の研究に必要な箇所を検索・引用その他研究に便利なようにパソコンに入力した。 これらの基礎的作業の上に築かれるべきモンゴル帝国史の研究については、上述した基礎的作業に時間の大部分を奪われたために、限定的な成果をあげるにとどまった。すなわちモンゴル帝国史の諸分野のうち特にモンゴル帝国建国史に関して私は目標を設定して研究をしてきたので、今回もこの時期の問題の一つであるチンギス・ハンとケレイト部のオン・ハンとの関係について分析・検討を行なった。それに関する史料は、4種の文献に各2箇所ずつ記されており、各内容が若干の差異を伴っている。それらのこみ入った史料の精密な分析にこそ、この問題の実体を把握する鍵があるとの観点から、それら関連史料を全てパソコンに入力し、厳密な分析・検討を開始したところである。これについて、平成2年度のしかるべき時期にしかるべき成果をあげるよう、目下分析・検討を急いでいるところである。
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