此の度の2年間にわたる(1988.4〜1990.3)科研研究は、1988.4以降向う10年間に及ぶ長期計画の最初の部分をなすものである。長期計画の主眼は、フランス中世中期(特に1150〜1250年)について、1.諸侯権、諸侯領の確立過程。2.諸侯(公・伯、司教座)の統制権の王の下への集積、3.貴族・領主層の身分・階層秩序の確立の三点を核として、中世中期の権力編成を全般的に整合的に再構成することにある。 科研研究の第一年目は、それ以前の研究との関係で、司教座研究に力点を置いた。この面では、研究内容を大きく二つに分けることができる。即ち、1.西欧中世中期なおける司教座権力の拡充過程を多方面から検討し、それぞれの理論的整理を行なうこと。2.私の旧来のフィールドワークの対象であるシャパーニュ東南部に位置するラングル司教座について、その権力の拡充過程を多面的に、実証的に検討することが当面の課題となる。昨年4月当初の予定では1.を先ず完了させ、次いで2.の作業を可能な限り進める予定であった。しかし、1.で整理すべきテーマが意外と多く、それらを消化するのが精一杯であった。だが、科研費のお蔭で、司教座を中心とした中世貴族権力に関する重要な欧米研究者の実証的成果を集めることができ、1.の理論的研究は一段と進んだと言える。現在、2.論文を書き上げ、更に第三論文を3月一杯に仕上げて1の課題を完了させる予定である。上記課題2についは、既に原史料の分析、欧米研究者による当該地域についての研究成果の批判的検討は終えているので、支給が予定されている二年目の科研費で不足している文献、史料を補充しつつ、論文に仕上げていく予定である。2.については、パリのC.N.R.S.で12月に催される「司教座に関する史料学的研究」の集会で論文発表を依頼されており、それに向けても、一日も早く、この課題への取り組みを再開しなければならないと考えている。
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