1989年度の課題としては、(1)1986年以降進めてきた司教座権力の確立過程に関する最終的な仕上げをすること、(2)1250年にまで対象時代を拡げ聖俗貴族・領主層全体の身分・階層秩序確立の問題に理論的見通しをつけることを挙げた。(1)に関しては、2回の報告と3論文の作成を手がけた。即ち、(a)フランス中世中期(11・12世紀)司教座の組織編成の面から世俗の各級貴族権力との連関についての報告と(b)同一の問題についてのラングル司教座の事例、実証的研究成果の報告(於C.N.R.S.、パリ)を行なった。後者の報告では併せて仏語論文を用意した。これは1990年中に他のフランス人研究者の司教座に関する研究報告と共にC.N.R.S.から図書として出版される予定である。また、この集会の概要については近々日本の専門雑誌に投稿する予定である。又、論文としては、(イ)司教座の組織編成と人的構成に関するフランス全般の傾向の概括、(ロ)上記報告(b)を論文の形で整理したもの、(ハ)司教座による管区支配権の強化過程を、教区支配をめぐる修道院との関係でラングルに関して行なった実証研究の成果以上3点を1990年2月までに完了したいところである。次に(2)に関しては、本年度も昨年度に引きつづいて、貴族制、王権に関する研究書(新刊書)の主たるものを購入し、又、1989年11、12月には渡仏する機会を得たため、古書、主要雑誌論文を追加入手することができた。この面では、時間の関係で、現在のところ十分に資料を活用し得ていないが、1990年3、4月の段階で、5月の「洋史学会大会」に向けて、所期の目標たる聖俗貴族・領主層の身分・階層秩序確立に関する理論的大枠を作り上げることに努めていることろである。以上、「交付申請書」で策定した本年度の計画はほぼ満足のいく形で実現できたものと考えている。
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