1989年度の課題として挙げた2つの問題は1988年度のそれを継承するものであった。いずれもフランス中世王権と貴族制に関する実証研究についてのものである。この2年間の研究は(1)私の1976年以来の研究テ-マたるフランス中世中期の貴族・領主権力の実態と性格に関するシャンパ-ニュ東南部を対象とした実施研究の最終的完了、(2)対建王制確立(13世紀中葉)に向けての権力構造の変化・発展の研究という次の一連の研究計画にメドをつけることを目的としたものであった。(1)に関しては特にフランスでの博士号取得(1985年)以降手がけてきた最大の聖界権力たる司教座権力の理論的把握とラングル司教産に関する実証研究を進めて来た。この面では、それ以前のものと合わせて、合計7論文(未刊分を含む)を仕上げることができた。ここでは司教座の全権力構造に占めた位置、王以下の各級の世俗貴族・領主層との関係を中心にほぼ全面的に研究を終了させることができたものと考えている。又、第二の課題についてであるが、必ずしも十分ではないが、この2年間に科研費を用いて、過去5年間に欧米で刊行された貴族制、王権に関する主要な書籍をほぼ総て収集することができた。古い刊行史料集、未刊行史料のマイクロの収集は、予算の関係で極めて不十分であるが、理論的検討に必要な素材はほぼ十分であると考えられる。現実には、第一の課題の集約に予定よりも時間がかかり、第二の課題については、1990年5月の「西洋史学会大会」で、ごく一般的な理論的枠組を提示するに止まりそうである。これを手始めに、1990年度以降、理論的枠組の整序、更に、シャンパ-ニュ地域についての原史料を用いた実証研究を精力的に進めていく所存である。
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