本研究の主要な目的は、ハプスブルク帝国の一辺境地ヴォイヴォディナ(南ハンガリー、現ユーゴスラヴィア領)出身の政治家・思想家ポリトーデサンチッチとミレティチのバルカン連邦構想を詳細に検討することにある。さらに、この2人のセルビア人の本国であるセルビア公国(1878年から王国)、そしてバルカンのギリシア王国やブルガリア、ルーマニアなどの同時代人のバルカン連邦構想を追ってみることである。本研究助成により、ユーゴスラヴィアにある史料や文献をかなり入手することができた。しかし、史料・文献の入手が手間どり、3月になって入手できたものもあり、現在これら史料・文献を整理すると同時に、読みこみと分析を行なっている最中である。また、欧米の文献については、昨年中に入手することができ整理は完了している。このような整理状況なので、現段階で新たな知見や成果を出すことは困難であるが、相互対立の典型としてのみ見られることの多かったバルカン諸民族の自主性や協調性を史的に跡づける可能性を確認できた。これが、現在のところ最大の成果といえよう。本研究を通し、今後は、バルカン諸民族の歴史を西欧との関係あるいはロシアとの関係といった視点からのみ捉えるのではなく、バルカン諸民族に内在する要因(例えば、この地方に固有な家父長的大家族共同体ザドルガや森林に身を隠すアウトロー集団ハイドゥクなど)に視点を深くすえることにより、この地域が逆に西欧世界やロシア世界に及ぼす影響についても実証していくつもりである。西欧世界とロシア世界との接点に位置するバルカン地域のもつ史的な意味は決して小さくないものと思う。
|