研究概要 |
主題へのアプローチのひとつの方法は、第一次大戦期の独墺軍による東方占領と統治に当面して、占領下の住民諸集団・階層がどのように反応したかを回想記などを通じて検討することである。ポーランドにおいては旧ロシア領が1915年から18年まで独墺軍の支配下におかれ,さまざまな回想記が書かれている。日本で利用できるものとしては,第一に、1920年代から刊行された不定期逐次出版物『独立』に収録された回想記群がある。これを編集したポブーク・マリノフスキはピウスツキ派に属する歴史家であるが、国民民主党系の活動家や、社会主義運動、農民運動の諸派の活動家の回想をも広く収集している。第二のグループは、1972年に編集された一巻本の『第一次大戦におけるワルシャワ回想記録』であって、ここに18名の記録(500ページ)が集められている。第三のグループはユーゼフ・ハワシンスキの編集した『農民の回想』4巻(1936-38)および『人民ポーランド農村の若い世代』10巻(1965-80)である。 これらの回想記録はさまざまな民族的出目、社会層の筆者のものを含んでおり、一様ではないが、若干の特徴的論点は指摘できる。第一は、当然ながら大戦の戦線移動は当該地域の諸民族・人種集団の住民の移住を伴ったことである。第二は、大国間の戦争に当面した小民族の社会層は戦前までの支配国への帰属意識から容易に脱却できなかったことである。ポーランド人、ユダヤ人住民の間に旧支配国からの政治的、社会的、文化的解放の可能性の意識が広まり、具体的な運動が開始されるのは戦争の最終段階、つまり独墺軍敗北の見通しと、1917年のふたつのロシア革命ののちになってからである。第三に、農民運動・社会主義運動の指導者による現状認識と方針は、その基盤である農民大衆、労働者大衆の意識とは必ずしも一致していないことである。かれらは独墺軍敗北とロシア革命によって生まれた新しい状況に半信半疑で対応し始めた。
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