東広島市西高屋町に存するマツダ株式会社の社宅居住者に、調査票留置法による方言習得の状況について調査した。男性490人、女性482人、解答率82%という高い回収率であった。うち30%が県内出身者である。 これまでは、共通語と方言との間に関する事項についての調査が中心であった。一方言圏から別のそれに移住した人の場合、どのような諸問題が認められるかという観点からの調査はなかった。本調査は、社会変動の大きい現代における言語調査として、各種の有益な資料を与えてくれるものとなった。 分析の結果、移住地の方言に対する好悪の感情が、どのようであるかということがまず、わかった。その分析には多変量解析法を用いた。 (1) 広島県内出身者も県外出身者も、広島方言に対する好悪の意識には、同質な傾向が認められた。 (2) 女性は、男性に比べて、自らの態度を保留しがちである。 (3) 40歳以上の人々は、広島方言が共通語に似ているという印象を強く持っている。しかし、県外出身者の場合には、広島方言に好感を持っているとは答えないで、態度を保留しがちである。 (4) 居住歴が、10年を越えると、県外出身者でも広島方言にマイナスイメジを持つ人が急速に減少する。しかし、態度を保留する方向に向かいがちである。 (5) 東京近郊に居住したことのある人の場合、広島県出身者は広島方言で話しかけられると、嫌な感じがすると答える。東京近郊での居住歴が広島方言に対するマイナスイメジを強化していると言える。 以上が、第一次の分析結果の概要である。今後は、広島方言あるいは大阪方言、東京方言などとしての性格の明らかな語形に対して、どのような意識を形成しているかについて分析を進める予定である。
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