当初に予定したとおり、前年度から継続して行った読解の試みがほぼ完結したので、その成果を踏まえつつ、全体的な見地から改めて各条を分析し、総括的な展望を得るべく努力した。具体的には次の成果を挙げた。 第1に、各条の主題を正確に摘出した。 第2に、各条の主題と忠実をとりまく歴史的、社会的、個人的な状況を極力精査して、話題との関連性を具体的に指摘した。 第3に、各条相互間の内容の連関、特に同日に語られた話題に見られる連関性に注目して、それを的確に把握するよう努めた。 以上の3段階を経て獲得された知見の全てを動員して、最も網羅的かつ具体的に、しかも簡潔かつ即物的に研究成果を公表する方法として、全条について以上の3点に係わる情報を図示した一覧表を作成した。これこそが本研究の現段階における到達点を示すものであって、これまで不正確な読解のままに言及されたり、わかりやすい部分のみが恣意的に論じられるに止まり、全体的な展望に立った研究皆無に近かった『中外抄』『富家語』の世界の全体像は、これによってきわめて明解なイメ-ジとして捉えることが可能となった。 この一覧表の完成により、この表自体からさまざまな研究課題の在処を知ることが可能となった。たとえば、両書の性格の類似点と相違点はますます具体的になってきたし、この表によってなお空白に近く残された諸条は今後最も緊急に情報の獲得に留意すべき問題を孕んでいよう。この問題にも関連するが、両書はそれぞれに話題のあり方に一種の「波」のあることが認められる。それが語り手忠実の側の問題の反映なのか、記録者の側の問題なのか、これも検討を要する課題であろう。
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