今年度に調査収集できた文庫・図書館は東北の仙岳院、中部の真福寺大須文庫、静岡県立美術館、関西の叡山文庫、仁和寺、大谷大学図書館、西教寺、東大寺図書館、四国の善通寺、志度寺、九州の島原松平文庫等々。関西地区を中心に比較的広範囲に及ぶ地域の調査ができた。 収集できた資料の主なものは、叡山文庫の『唱導抄』、仁和寺の『表白集』『宝訳秘抄』、大須文庫の『表白集』『因縁処』、東大寺図書館の宗性書写の唱導資料等々、従来、存在を知られていなかった貴重な唱導関係の古写本の新資料が多い。 収集できた資料の量が多く、また孤本も多いため、相互の関連をみきわめるのが難しく、書誌データの集積に追われ、充分整理のつくところまで至らなかった。 収集分の資料を基礎に平安・鎌倉時代唱導文献の目録を作成しつつあり、同時に願文・表白類の作成編年リストの準備を進めている。 願文・表白を中心に調査研究を進めているが、関連する諷誦文・呪願文など一連の唱導文献・あるいは法会の式次第、儀礼の実態、葬送など、法会の場自体の解明にも問題がひろがってきており、東京国立文化財研究所主催の法会をテーマにしたセミナーに参加したり、東大寺三月堂の方広会の法会を実見し、多くの知見をえることができた。 大寺院の多くは調査の許可をえられないところが多く、許可が出ても調査日程が制約されたり、撮影許可が出なかったり、調査のあり方の再検討を感じた。また、ほとんど未開拓の分野に近いため、資料の全貌が依然としてつかめず、その実体を把握するには多くの労力を要することを痛感するが、新資料をあいついで発見できるなど、予想以上に多くの成果をえることができた。
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