本研究では未知の中世唱導資料の発掘と調査を目的とした基礎研究を行なった。その研究実績の概要は以下のとおりである。 1.中世唱導資料の収集:本研究で調査できた寺院・図書館・文庫は仁和寺・三千院・西教寺・善通寺・仙岳院・叡山文庫・大谷大学・竜谷大学・東大寺図書館・真福寺大須文庫等である。主に関西地区の寺院及び仏教系大学附属図書館を中心とした広範な調査を実施することができた。 2.中世唱導資料の書誌的整理:収集し書誌的整理が一応完了した資料の主なものは、叡山文庫の法則集・澄憲作文大体・唱導抄、大須文庫の表白集・因縁処、仁和寺の表白集・釈門秘論、東大寺図書館の宗性自筆唱導資料等である。従来存在を知られていなかった貴重な文献を数多く発見した。 3.研究資料の整備:未紹介資料のなかで、基本的で重要な価値のあるものについては、広く利用されるために、信頼できるテキストを翻刻公刊するよう、鋭意努力している。 4.研究資料の内容分析及び資料相互の比較研究:収集した資料は短期間であったにも拘らず、相当量に上り、その整理に追われたこと、又、未開拓分野であるため研究も整備されていないことが重なり、個々の資料の内容分析や、資料相互の関連を見極めることは不十分であった。継続的に研究を行うこととしたい。 5.平安・鎌倉時代唱導文献資料目録(年表)の作成:収集した資料を基礎に、平安・鎌倉時代を中心に唱導関係文献のデ-タをとり、願文・表白の述作年表を作成し、公開した。これは、年表の性格上、年時の確定できるものに限ったので、今後も継続的に年時不明の資料や未収の資料を加え、より完成したものに整備したい。
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