1.『ばら物語』およびそれに関連する文献資料の収集は、まだまだ不十分とはいえ、かなりの程度まで目標を達成することができた。ただし従来の研究がどこまで行われているかを徹底的に調査することに関しては、本年度で十分行えたとは決して言えず、来年度以降、引続き行わなければならない。 2.『ばら物語』(前編)の表現レベルの研究として課題を設定した、比喩表現の研究のうち、comme(〜のごとく)を用いた表現に関しては一応すべての例をカード化することができた。しかし、これらのデータの分析、とくに前編の作者ギョーム・ド・ロリスの言語上の特徴を後編の作者ジャン・ド・マンのそれと比べる必要があり、この件に関しては、後編の調査が手付かずの状態なので、今後の課題として残っている。 3.現実描写から夢などの非現実世界へ転換のモチーフおよびその定型表現の研究に関しては、本研究のもっとも重要かつもっとも独創的なものとなる予定である。すなわち、『ばら物語』前編においては、読者を現実世界から非現実世界へ導きながら、物語の進行によってそれがいつのまにか忘れられ、読者はそれが現実の世界のできごとのような錯覚を覚える。そのようなとき作者は再び読者を非現実の世界に導かなければならない。このことは常に繰り返されるので、『ばら物語』(前編)は非現実化の連続の観を呈することになる。これを本研究代表者は「不断の異化作用」と呼ぼうと思う。 この件は時間切れとなり、昭和63年度内に論文としてまとめあげることができなかったが、近い将来まとめて発表する予定である。
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