前年度に引き続き、瀬戸内海各地の干拓値の現地視察・調査により、干拓地における治水・排水の施設および管理秩序にかかわる契約書・古文書・習慣の収集を行い、干拓地の排水秩序の現実的規構造を解明していた上で重要と思われる知見のいくつかを得た。次の諸点である。1.ゼロメ-トル地帯であって潮堤や潮廻し、排水樋などの排水施設による排水機能の確保を存立の絶対条件としている干拓地-これが公有水面埋立法5条4号の「習慣排水者」規定の自然的基礎であった。 2.「習慣排水者」もしくは習慣排水権が成立する社会的基礎としては、(1)排水が長期にわたって反復継続され、かつ排他的排水であること、(2)排水の利益の享受者が地域的に限定でき特定人であること、(3)公有水面への排水の正当性に対する社会的承認を獲得していること、および(4)当該埋立によって排水に影響を受けるおそれがあることの4点をあげることができる。 3.習慣排水権の性格について。(1)干拓地の用途が新田・塩田から都市的土地利用に変換したとしても、その事実は習慣排水権の存否に影響を与えるものではない。(2)しかし、それは習慣権水権の権利主体や権利としての性格に与える影響は相当大きいものがある。権利主体に対する用途変化の影響は、干拓地内居住者の共同体的権利からその個別的権利への変化として現れる。権利の性格に対する影響としては、農業生産のための財産権という性格から、洪水等から干拓地住民の生命・身体・財産を確保するという、いわば生存権的性格への変化を指摘できる。以上の知見を得たが、今後の研究の展開との関係で必要な埋立て・干拓の環境に及ぼす影響についての調査「瀬戸内法の現実的機能についての学術調査」を実施した。平成二年二分析する計画である。
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