1.まず、国際間の人的交流の活発化によって、どのような社会保障上の問題が生じるかを、わが国の現行法の検討によって分析した。これによって洗い出された問題について、EC社会保障条約およびフランスが締結しているる2国間社会保障条約がどのような解決を与えているか、その背景は何かを検討することを本研究の具体的な課題として設定した。 2.EC社会保障条約は、EC域内での人の移動があった場合に、社会保険を中心とする社会保障給付の調整を行うことを目的とする条約であり、調整の対象となっている社会保障給付は、医療、年金、労災、失業、家族等広範なものであることが明かとなった。こうした条約が必要とされた背景には、EC域内での自由な経済交流を促進するという政策的目的がある。他方で、どのような方法で調整を行うかについては、関係国の社会保障制度や給付の持つ特殊性が反映することがあり得ることを、フランスの家族給付の調整をめぐる事件の検討を通して検討した。 3.フランスが締結している2国間社会保障条約は24にのぼり、相手国は旧フランス植民地国が中心である。このことは、社会保障条約の成立には、関係国間に歴史的、経済的な理由からの緊密な交流関係の存在が必要であることを示唆している。 4.本研究を行うにあたり、フランスおよびECの社会保障に関係する通達集、判例集、議会答弁集、および社会保障関係の法律専門誌を購入したので、こうした資料の活用によって、本研究課題およびそれに関連する周辺領域の研究を継続する計画である。
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